科学博物館とリアルな体験
先日久しぶりに上野の科学博物館に行ってきました。特別展示もさることながら、近年建物ごと一新された常設展示も見所が多く、貴重な時間を過ごす事ができました。
特に感じた事は、いかに実寸大のものに触れることが大切かということです。古代の恐竜も現在の生き物もすぐ目の前に展示されているのですが、最近可能となった一見リアルで鮮明な画像とは明らかに違うのです。
それはリアルであることとリアルに見えることの違いです。リアルな対象物を前にした時初めて、実際の自分との実寸レベルの比較が出来るからです。
もちろん展示物は生きてはいないし、それらが生息していた環境でもありませんから、ニオイも音も空気感もありませんので、本当のリアルからはかなり遠いものにはなっていますが、それでも、同じ大地に立って対面した時の状況は、ある程度の生活感とともに実感できるのです。養老孟司が言っているように、自分の体や五感を使った時、初めて「分かる」のです。
随分前の事、沢山の野ウサギが生息しているスコットランドの小島に行ったのですが、大人でもすっぽり落ちるであろうウサギ穴がいたるところに空いていました。その時「これならアリスも落ちるわけだ」と分かりました。現実が仮想であった想像を書き換えた瞬間です。
だんだんと人は、他人との関わりが苦手となり、家にこもることも非日常ではなくなって来ています。驚くことにゲームのみならず、最近は学校でさえも、VRゴーグルを通して、しかも自分達をアバターとして参加させて、バーチャルな仮想空間で生活する事も増え始めています。マスコミも驚きと称賛を込めて伝えています。やがては、映画のマトリックスのように、脳に刺激を与えて、一見リアルな五感の体験も可能になるでしょう。
しかしリアルに感じているだけで、それは現実ではありません。予測不能で、人がコントロールすることの出来ない世界、実存哲学で言うところの不条理な現実があるからこそ、それが真実の世界であり、そこで生活することが、実際に生きることなのです。
養老孟司も推奨していますが、生きる実感を味わうためにも、自分の体を通しての五感を磨くためにも、もっと自然の中に入り、本当の意味でのリアルな自分と向き合わなくてはと思う今日この頃です。