文化文化芸術歴史

「弦楽四重奏曲第14番」このベートーヴェンは美しくせつない。

2022年3月28日

 一人の若者が、快活で美しい女性を街で見かけます。まだ素性は分かりませんが、彼女を見かけるたびに、心が踊ります。

 「いったいどんな女性なんだろう。」思えば思うほど、心の中は喜びと切なさとが交錯します。「おいどうするんだい?」「何をぐずぐずしてるんだい?」もう一人の自分がささやきます。

 やがて二人は、言葉を交わし、街のテラスでお茶を飲み食事をする仲になります。時に湧き上がる彼女を思う狂おしい気持ちも、会っている時は、何故かとても心が落ち着く彼。

 デートを重ねるうちに、およそ空想の中だけにいた彼女も生身の人間としてとらえられるようになっていきます。彼女もまた彼が特別な存在に思えてきます。

 さてこの二人は、人生を共にするパートナーとなるのでしょうか?.......

  これはこの曲を聴いた時の私の勝手なイメージです。ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第14番」

  まずどこまでも続く、切なく息苦しい高音の和音。会話のような形式を取る対比法なのに、初めの主題に対して、もう一つの主題が割り込む。決して相手のセリフが終わるのを待っていない。しかし、決して絶望的ではなく、そこには、ときめきと、恋焦がれるような強く湧き上がる感情がある。

 一瞬の穏やかな安らぎののち、最後には、ベートーヴェンらしい、信念とも確信ともとれる、未来をみすえた展望が見えてくる。

  当時二十代の私は、偶然FMから流れてきたこの曲に度肝を抜かれて、しばらく興奮をおさめることは出来ませんでした。

 背筋をピンとはった古典派の作風から、人の琴線に触れる繊細なロマン派への橋渡しをした最高傑作。

 ぜひ、本当のベートーヴェンに出会ってみてください。

ミネルヴァの梟がいま飛び立つ