一期一会

「一期一会(いちごいちえ)」という言葉を聞いたことがありますか?

 意味としては,「せっかく初めて会ったのに,それは最後」ってな感じですね。能の世界では,ひとつの演目が本番一回公演の形式で,リハーサルは1回だけなんです。びっくりしませんか?

まず,細かいお話しをする前に,能の構成を説明しておきます。

 演劇なので,登場人物(基本は①主人公「シテ」,②脇専門役者「ワキ」,③狂言師「アイ」の計3名,④小道具・大道具や舞台設備{「シテ」のグループが担当})で構成されます。

 そしてミュージカルなので,楽器(「ハヤシカタ」⑤太鼓,⑥大鼓,⑦小鼓,⑧笛の計4名),バックコーラス(⑨「ジウタイ」能役者のグループが担当の10名程度)は必須です。

 古典芸能ですので,脚本や楽譜をいじることはありませんが,「シテ」「ワキ」「アイ」「太鼓」「大鼓」「小鼓」「笛」ごとにいくつかの流儀があり,それぞれ独自の脚本と楽譜を持っています。そしてそれらが組み合わさって,はじめてひとつの舞台が完成されるのです。またこの組み合わせは,「シテ」の注文で事前に決まります。

 なにごともそうですが,練習があり,さらに役者や演奏者やスタッフが集まって,事前に細かな打ち合わせをしますが,能の世界では,それを2時間程度の本番直前の一回だけのリハーサル(「申し合わせ」)だけですませます。

 そして驚くべきことに,前述した役割数字①~⑨の人たちは別々に練習や準備をして,いきなりリハーサルで会い,いきなり本番をむかえるのです。

 そこに独特の真剣勝負が生まれ,高度が芸術が生まれるのです。

ミネルヴァの梟がいま飛び立つ