能を舞うことはとてもストイックなことです。

 能を舞うとは、能のシテ(主人公)を務めることです。30分前後かけて厚手の絹の生地でできた装束の数枚を重ね着して、その下にいわゆる下着をつけます。

 足袋、白襟の半襦袢、パッチ(白い綿のももひきで、素肌が見えないように裾につけたゴム紐に足を通してその上に足袋を履く)、胴着(ダウンジャケットのように中に綿がしっかり詰まったもので、外側の装束を美しく見せる)、シャッポ(鬘の下の帽子状のもの)を用意します。

 そこに、お面と鬘と髪飾りをつけると、まるで15kg前後の分厚くて重い布団によるパッキングが完了します。

 その状態で、90分前後の緩急ある動きと謡を執り行いますが、NHKの科学実験番組で調べたところ、シテ(舞手であり謡手)の心拍数は、100から200を行ったり来たりしているそうです。

 こうしてお能を舞い終わると、2~3kgの汗が出て、それを、半襦袢とパッチと胴着が吸い取ります。

 私の場合ではありますが、申し合わせ(リハーサル)と翌々日の本番で、水分を補充しても2~3kg減ったままの日々がしばらく続きます。いかにカロリー消費が激しいかがわかるのではないでしょうか。

 能の動きは中腰で摺り足を使うのですが、外見からは、どんなしとやかな表現に見えても、私の感覚はいつでも柔道の背負い投げができるような重心の取り方を心がけています。常にふらつくことなく、ストイックな状態にひたすら耐えてこそ、本当の美が生まれると信じています。

ミネルヴァの梟がいま飛び立つ