私は長年世界史の教員をやっていますが、今更ながらいつも見慣れている資料集の人物に髭がないことに気づきました。

　それは洪秀全という人物で、19世紀の清朝に起きた太平天国の乱の指導者です。通常中国では髭を生やすのですが、宦官と呼ばれる者たちは、刑罰もしくは、大奥(後宮)の世話のために睾丸を摘出されてホルモンの関係上、髭を生やすことが出来ません。

　そこで彼は宦官出身者と疑ったのですが、すかさず同僚は科挙の受験経験からそれを否定したので、原因を反因襲的な態度かとも疑ってみたのです。いつもならGoogle検索をするところなのですが、半ば冗談のつもりでChatGPTに聞いてみました。すると次のように回答してきたのです。

　「洪秀全は、太平天国の指導者である中国の宗教家でした。彼がなぜ髭を生やさなかったのかは、正確には分かっていませんが、彼の肖像画によれば、彼は通常、顎鬚を生やしていることが示されています。ただし、彼が若い頃には、髭を剃ることが流行しており、彼が髭を剃ったか、あるいは彼が若い頃に流行したこの文化的慣習に従った可能性があります。」

　慌ててGoogleで「洪秀全　髭」と検索すると、髭の生えた肖像画が出てきたのです。普段から精度はまだまだと思っていただけに、感服させられました。

　このシステムの限界は、情報の収拾に対する集積に、人間による教育が不可欠なのだそうですが、不安ばかりのイメージを、払拭させられる出来事となりました。