多言語文化芸術歴史

やっぱり吹き替えだけじゃ楽しめない(その3)メリーポピンズ編

2023年1月2日

 映画「メリーポピンズ」をご覧になったことはありますか?原作者はイギリス人なので「メアリーポピンズ」ですが、ディズニーが製作したのでアメリカ英語の「メリー」を使っています。

 主演は5オクターブの美声を持つジュリーアンドリュース。イングランド生まれの彼女は完璧なクイーンズイングリッシュを話し、単語の最後のTまでしっかり発音してくれます。それに対して相手役のディックバンダイクはアメリカ人で、グダグダの発音が対照的です。ちなみに熊のパディントンが話す英語も訛りのない上品なイギリス英語です。

 イギリスには階級ごとに訛りがあり、下層労働者の話し言葉のコックニーは、マイフェアレディの主人公イライザやサッカーのベッカム、ビートルズの英語がこれにあたると言われて話題になったことがあります。また、大学進学者の多いホワイトカラーの中産階級の英語もあり、話すだけでその人の階級が分かってしまう国だそうで、近年、「文法も発音も気にしないでいいから、萎縮せず、とにかく話せ」という政府が進める日本の英語教育で育った人たちは、イギリスではとても肩身の狭い思いをさせられることでしょう。

 私は何度もイギリスに行きましたが、アジア系なのでまず信用はありません。そこで言葉はともかく、服装をスーツにするだけで、ある程度差別を防げることに気づきました。「ジーンズにリュックだとホテルの従業員やタクシーの運転手の扱いがぞんざいになる」とイギリス人の英会話の先生に話したら納得されてしまいました。

 さて「メリーポピンズ」の話に戻りますが、話の展開で重要なポイントとなるジョークがあります。「私は義足を付けたスミスという男を知ってる」と言うと、友人が尋ねた「もう一つの義足の名前は?」

 これわかります?長年の疑問でしたがネットで調べたらわかりました。原文では ”I know a man with a wooden leg named Smith.””What’s the name of his other leg?”

 謎解きのポイントは「a」です。作文する時にいつも英会話の先生に指導されてきたのが思い出されました。すなわち「the」なのか「a」なのか」という日本語にはない冠詞や複数か単数かという感覚です。

 相手にとって既知または特定できるものは「the」、そうでないものや漠然としたかたまりは「a」、複数はお尻に必ず「s」をつけるし、単数なら冠詞はaをつける。

つまり「義足を付けた男のスミス」と言ったつもりだったけど、相手は「「1本のスミスという名の義足」をつけた男」と理解したというジョークです。

やっぱり吹き替えじゃ楽しめないですね。

ミネルヴァの梟がいま飛び立つ