多言語文化芸術歴史

やっぱり吹き替えだけじゃ楽しめない(その4)熊のパディントン編

2023年1月3日

 私の大好きな映画に「パディントン」があります。ロンドンで生活する可愛く真面目で紳士な熊の物語。とても心がほっこりします。子供向けのおとぎ話でありながら、れっきとした喜劇王チャップリンやキートンの流れをくむ、しっかりとした本格的喜劇でしかもお洒落。

 登場人物はいたって大真面目。日常どこにでもありそうな街と家と家族。そこに偶然のアクシデント。ウケを狙った奇妙な顔や動きが無いにも関わらず、その真面目さと、人間が織りなす絶妙の間だけで人を笑わせる。そこにささやかな悲哀と温かみがある。

 そもそも彼の名前は、田舎からパディントン駅についたものの、これからどうしたものかと途方に暮れているところを、人間の家族に拾われ、その時、駅名にちなんで付けられたものです。

 随分前ですが、私はひとりで泊まる予定のヒルトンホテルに近いこの駅で迷いながら、通りがかりの人達に聞きながら、重い旅行カバンを長い時間引きずった経験があります。せっかくなので初めてのお使い状態で、チケットを購入してライオンキングを観ました。そして翌日の朝、食事をとっていると、目の前を大勢の人たちが旅行カバンをひいて、ある扉に向かっているではないですか。何とホテルは駅に直結していたのです。あの苦労した時間はなんだったのでしょう。映画を観た時、気持ちは主人公にシンクロしました。

 さて映画の話に戻ります。続編の「パディントン2」。ある時、生まれて初めて経験する駅の下りエスカレーターの乗り方が分からず、二の足を踏んでいるパディントンは、壁の注意事項に目を止めます。

Dogs must be carried.

 彼はおもむろに、偶然そこにいた飼い主からはぐれた犬を脇に抱えて、神妙な面持ちでエスカレーターを降りて行きます。

 やっぱり吹き替えだけじゃ楽しめない。

追記

 映画館での字幕ですが意外なことにやっているのは日本だけだそうです。識字率の関係で西洋でもアジアでもしっかりと文字が読めない人が多いのでほとんど吹き替え。またアルファベットだと文字数が多すぎるとのこと。読むことでいうと漢字カナ混じりの日本語が世界最速と言われる意味が良くわかりますね。

例えば…「映画館の字幕が美しい=The subtitles in the movie theater are beautiful」ってわけです。

ミネルヴァの梟がいま飛び立つ